テーブルとイスのバランス3:応用編
公開日:
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最終更新日:2018/09/07
紹介
前回のブログ「テーブルとイスのバランス2」では、テーブルとイスのバランスの標準的な考え方をお話ししました。
今回はその標準をさらに進めたケースをご案内しましょう。
私たち家具の仕事をする者は、通常は標準的なバランスの寸法をお勧めします。しかし、その標準的バランスに違和感を覚えられるお客様がときにいらっしゃいます。
例えば、今までのイスやテーブルが古くなり、買い替えをされるお客様にありがちです。「このテーブルは少し低すぎに感じない?ちょっと使いづらいかも。」・・・・・もちろん標準的なバランスでお勧めしたものが、です。それは、お客様が今まで使っていた家具に慣れてしまって、自身の習慣やそのバランスを体が覚えてしまっているケースが多いものです。人間は意外とデリケートな生き物です。新しく買い替えたりした場合、従来まで使っていたイス、テーブルの高さやバランス感覚に親しんでいて、違うバランンスの寸法に違和感を覚えてしまうわけです。
結局、この場合、最終的にはお客様の選択次第ということでしょうか。
だいぶ前の話になりますがこのような経験がありました。
あるバーの案件で『コの字』のレイアウトのオーダーソファとオーダーテーブルを打合せしました。
スペース的に狭い感じでしたので、ベンチソファSH400、テーブルH620で奨めました。しかし、オーナー様はテーブルHを700にしてソファもSH400そのままだけどD600を650にしたいとおっしゃいました。つまり、ソファに座るとテーブル天板のTOPは300も高いことになります。しかもソファは当然、座ると更に沈みます。座の奥行も更に深くなるわけですから、それはあまりにもテーブルが高過ぎ、肘をついて使うことになりますが、とお止めしました。しかし家具のバランスはよく判ったうえで、どうしてもそうしたいとのことでした。
オーナー様が言われるには、「この店舗のスペースはたとえ初めてのお客様同士でも仲良く会話を楽しめて、わいわい盛り上がる場所にしたい。肘を付いて身を乗り出して、ぐらいになるのがいい。テーブルが低いと身体が人目に多く(面積的に広く)晒され、人はかしこまってしまう。あえてテーブルを高くして身体の下部などは見えなくして、自由に足を組んだり、場合によっては靴を脱いだりしてリラックスをしてもらいたいんだ。こんなふうにすると、より相手の顔や目に心や意識が集中して会話が盛り上がるんだよ。」・・・とのことでした。更に、下が見えにくくなるようテーブルを大きくしてイスに少し被るようにしました。座の奥行も深くなった訳ですから、靴を脱いで座面であぐらをかいても見えないようにとのことです。皆さんが全員同じよう思われるかはともかく、なるほど、一理あると感心させられました。
私達は、一般的な家具の最適バランスでアドバイスをしますが、そのお店をどのような場所にしたいかのお客様の考え方で、更にその上をゆくイスとテーブルの最適バランスもあるのではと感じました。
あくまでも通常、家具のプロがアドバイスするバランスは標準的なものであって、ほんとうのベストなバランスは、お客様がそのスペースや店舗をどうゆう場所にしたいのかという考え方が、より大事といえるのではないかということです。
誤解されないで戴きたいのですが、一般的に合った標準のバランスというのは、勿論ありますし、快適な家具の寸法バランスには長年の蓄積された意味があると思います。自分の好みだけでOKという訳では当然ありません。大事なのは、なにも知らないで決めるのではなく、標準を良く熟知した上でオーナーの思いを込めるからこそご自分を含めた皆さんにとって更にすばらしい空間になるのではということです。
家具は人間の生活をよりよく豊かにするための、あくまでも『従』なるもので、人の思いや希望より、家具自身や「バランスの基準」が『主』であるわけではありません。
私たち家具の仕事をする者は、その知識を十分知っておくことは当然ですが、バランスの基準を押し売りし過ぎずにお客様の思いも大事にする「知恵の家具バランス」が肝心だといえるのではと思います。
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